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幸田文『流れる』

 幸田文、あの幸田露伴を父に持つ戦後文学界のサラブレッド・・・・・・という肩書きはさておいて、氏の作品群が今日においても賞賛をもって文庫コーナーに迎えられる理由が十二分に納得いった一冊だった。

流れる 流れる
幸田 文 (1957/12)
新潮社
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 平安文学の観察眼をもって、戦後復興期の小汚い、生活臭い人間関係を綴った作品とでも言おうか。主人公・梨花は基本的に観察者に徹しているし、読者は、自ずとこの冷静で賢くそれでいてどこか人間臭い女中の観察眼を借りて花柳界の覗眼鏡を見ることになる。文庫版解説にもあるように『流れる』では擬声語が多用され、その描写は多分に《感覚的》である。感覚・・・・・・女の勘、という言葉があるように鋭い感覚というのは女性の専売特許であって、しかし感覚的であるということが実証的・経験的な観察眼や論理的思考――即ち《男性的》な思考――に比べて精確さ的確さを欠くという見識は見当はずれである。

 我々ヒトの世界は、人文理数を問わず科学という基礎に則って世界を噛み砕いて部分的に再構築あるいは増築を繰り返すことで成り立っているが、男たちが積み上げたこの科学そのものの方法論とは、詰まるところ感覚的なものの排除である。なぜ男たちは科学を構築するにあたって感覚を切り捨てたか?それはおそらく、自分たち人間の雄に備わった感覚の絶対的な弱さ、頼りなさを知っていたからではなかったか。つまり男たちは自らの感覚の未発達をフォローするかたちで世界を分析し、統計を立て、物差しをつくり、設計図を書いて色々と世界をこねくり回し――その結果が諸科学であり今日の社会システムではないだろうか。極端に言えば、男は何か目盛りがないとモノの優劣すら判断できない。また、数式や文法といった机上で扱うことのできる漠とした世界の仕組みに対しては理屈っぽいくせに、人間の生そのものに関わる現実に対峙するなりファナティックな感傷に浸りがちだから始末が悪い。それは戦中戦後というカタルシスに彩られた昭和の男性文学界を眺めてみれば火を見るより明らかである。太宰はどうだったか?三島は、安吾は?感覚の受容体の容積の小ささ故の逃避、ユートピアの創造・・・・・・筋肉に裏打ちされない人間の雄というのは実に頼りない。

 つまり先に述べた「流れる」における《感覚的》というのは、じめじめとした感情・感傷による観察ということではなく、快・不快以降のコマゴマした感情に浸るより先に現実に対峙し、受容し、嗅覚によって素早く選り分ける力強さという意味での《感覚的》である。その故に、この賢い観察者・梨花を一人称に近い視点で主人公に持ってきた「流れる」という作品は、女流作家幸田文によって書かれるべくして書かれた作品だと言えるかもしれない。女性の徹底した観察眼というやつは、日常を綴ったものを千年に渡って読み継がれる日記文学にまでしてしまうのだから空恐ろしいとは言うべきか。

なるたる3-085
《pic:鬼頭摸宏『なるたる』第三巻より》

 と、そんなことをつらつら考えてしまうほど観察眼が鋭く、尚且つ現代日本文学にありがちな台詞回しの「わざとらしさ」が感じられないほど鮮度を保ったまま生き生きと文章化された作品だった。また、作品全体を通して、下手に陶酔的なメッセージ性や急なストーリー性を持たせていないというのもブンガクとして高潔でストイックな印象を受ける。総じて言えば、女性側から提示された、純文学のさらに上澄みの《純純文学(そんなものがあればの話だが)》のひとつの形と言ってもいいかもしれない。読み応えも充分、お腹いっぱいごちそうさまでした。
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| 読書メモ | 12:45 | comments:1 | trackbacks:1 | TOP↑

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| | 2008/10/26 22:59 | URL | ≫ EDIT















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| あいなのblog | 2007/10/08 03:38 |

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